記事: お茶は時を楽しむ道具【第二話】
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お茶は時を楽しむ道具【第二話】
粋を現代に解釈するJINSUI
使いやすく現代のライフスタイルにフィットするJINSUIの急須は、緑茶だけでなく紅茶やハーブティなどにもぴったり。シンプルでモダンなフォルムは洗練され、急須が持つイメージを軽やかに裏切ります。実際の重量も陶器にしては非常に軽く、さらに計算された持ち手のバランスが所作を美しく整えてくれます。
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デザインを機能として表現する
「JINSUI」の急須は現代のライフスタイルに合わせた色や質感が特徴で、いままで急須を使ったことのなかった人たちからも注目を集めています。持ち手も男性や外国人の大きな手に合わせて長くすることで、持ちやすさだけでなく新しいフォルムを提案しています。細かなこだわりと、それを支える確かな技術によって「お茶を飲む」という時間を日常から贅沢なひとときへ変えてくれる「JINSUI」。なぜ、このようなデザインが生まれたのでしょうか。株式会社 人水の代表取締役 兼 デザイナーの渡邉 裕介(わたなべ ゆうすけ)さんにお話を伺いました。
「もともとファッションが好きで服飾の専門学校へ進学しました。学生時代にお花屋さんでしめ縄を販売するアルバイトをしたことがきっかけで、今度は植物に興味が出てフラワーアレンジメントの専門学校に入り直します。卒業後はイベントなどでの装飾を専門にオーダーを受けるフラワーアティストとして働いていたのですが、時間があるときには家業も手伝っていました。当時は急須作りにあまり興味はなかったのですが、結婚を機に事業を継ぐ覚悟を決めて修行し直しました。改めて真剣に取り組んでみると、技術や品質が高いのは良く分かるのですが、デザインにライフスタイルが反映されていないように感じていました。一方で、他のメーカーでは外部のデザイナーを起用したプロダクトもありましたが、本質的な機能が置き去りになっている印象があり、なぜかデザインがきちんと機能として表現できているブランドがなかったのです。そこで、まずは全体の1割程度の作業ボリュームで『JINSUI』を始めたところ反応が良く、きちんとブランド化していくことにしたのです」
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フラワーアティストならではの視点から生まれたプロダクト。
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季節や気候に合わせて型の扱いも変わる。
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変わらないように見えて、少しずつ進化する伝統技術。
時代の変化に寄り添うシリーズ
現在、JINSUIには3つのシリーズがあり、いずれもテラコッタのような優しいベージュやモルタルのようなクールなグレー、シックでモダンなブラックなど、マットな質感と時代性を帯びたカラースキームが特徴です。
「TOKI」は“時を楽しむ”ための道具たち。ひたすら美しいフォルムと使い勝手を目指し、お茶を呑みながら時を忘れ、時に遊ぶためのプロダクト。職人の世界では、茶を愉しむ時間のことを“時わすれ”と良い、高所で危険な作業を伴う鳶職などは焦って事故などを起こさないように、仕事にとりかかる前に験を担いでゆっくり一服したそうです。
「IROIRO」は急須の技術を取り入れたキャニスターから始まったシリーズ。蓋すりの技術による密閉性を容器に転用したもので、高い機密性はコーヒー豆やお茶っ葉だけでなく、乾燥を嫌う食品などにも最適。同シリーズの急須は大容量ながら軽量で、気取らない使い勝手が現代のライフスタイルにぴったりです。
「arecore」のティーポットとカップは洋食器などとも相性が良いデザイン性が特徴。オフホワイトの優しい色合いは汎用性が高く、緑茶だけでなくほうじ茶や紅茶ともマッチします。蓋なしのコーヒーメッシュとティーポットにフレッシュミルクを入れて、好みのカフェオレを楽しむのも楽しい朝食になりそうです。
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シャープなフォルムと柔らかな印象が融合した独特の佇まい。
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シンプルだが高い機密性を誇るキャニスター。急須の技術は奥が深い。
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蓋のないコーヒーメッシュはトーストと目玉焼きにもよく似合う。
時代と共鳴する美意識
JINSUIの機能をじっくり伺っていくと、多く3つの要素が融合しているように感じます。一つ目は伝統的な技術。この本質的な技術への自信が、新しいことヘ挑戦する姿勢の足腰を支えています。そして二つ目はプロの厳しい目から見ても納得のいく使い勝手。これは持ったときのバランスや緻密な構造設計によるもので、お茶を淹れる所作をスムーズに、美しく見せてくれます。そして、最後にデザイン。モダンな空間にもすっと馴染む現代的な雰囲気でありながら、決してデザインコンシャスではない素朴さや温もりを持っています。
「例えば私は安藤忠雄の建築が好きで、写真集なども良く眺めるのですが、加飾ではなくフォルムや質感を突き詰めた光と影の世界に強く惹かれます。果たしてそこに急須が存在することが許されるのか。その視点は、もともとファッションや植物に興味があった自分だからこそ持てるもの。そして、その想いをそのままに、純粋な美しいデザインを突き詰めることができたのだと思います。『Qusamura: 叢』のサボテンを見れば新しさを感じるし、『TRADMAN'S』のBONSAIを見れば“家に置きたい!”と思う。これまでは古色蒼然と見えていたものが、あるとき誰かの解釈によって急に鮮やかに蘇るような瞬間があります。JINSUIもご先祖様から代々受け継いだものを大切にしながら、未来に残せるように向き合っていきたいと思っています」
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現代的でもあり、どこか原始的な美しさも感じる。
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釉薬を塗らないため傷が隠せない。その緊張感が凜とした印象を与える。
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職人の正確で柔らかな所作に見とれてしまう。
急須からはじまる新たな伝統
JINSUIでは、ランプシェードやフラワーベースなど急須というカテゴリを超えた新しいプロダクトも開発されています。しかし、開発秘話を聞くといずれも急須の技術がしっかりと根付いていることに驚かされます。そこには試作を重ね、数々の失敗を繰り返してきた痕跡がしっかりと残されていました。そこで、いまでは当たり前の急須も、その昔に誰かが試行錯誤した結果であることに気付かされます。誰かが“お茶を呑むという時間”を楽しみたいと思ったからこそ生まれた急須という道具。渡邉さんの新しい製品を作る根底には、「今度は自分が忘れ去られそうな文化の面白さを伝えたい」という強い想いを感じます。決して阿るわけではなく、あくまで軽やかに、粋に、古来の人々が楽しんでいた豊かさを伝える。そんな無邪気さがJINSUIのプロダクトに独特の品を与えているのかもしれません。そんな話をしていると「あ、思いついちゃった」と、渡邉さんが屈託のない笑みを浮かべます。こうしてまた、新しい伝統が始まる。そんな瞬間を垣間見た気がします。
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一人3役をこなすことで、休みやすい職場環境を実現。
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古くから伝わる技術と新しい発想が出会い、感動を与える。
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「面白いことは日々の生活にある」と、いつも楽しそうだ。